相続
2025/10/27

【相続⑥】行方不明の相続人がいる場合の対応策|不在者財産管理人・失踪宣告による解決

 遺産分割を実施しようとしても、行方不明の相続人がいるケースは決して珍しくありません。
 遺言書がない場合には、相続人全員の合意がなければ遺産分割協議が成立しません。
 そのため連絡が取れない相続人がいると、手続きを進められずに困ってしまうこともあるでしょう

 そこで、本記事では、遺産分割や遺留分、遺言書の作成など相続問題に精通する弁護士が、≪行方不明の相続人がいる場合に遺産分割の手続きを進めていくための対応策≫を詳しく解説します。


行方不明の相続人がいると遺産分割が出来ない

 被相続人が亡くなった際、遺言書があればその内容に従って遺産を分割します。
 しかし、遺言書がない場合には、遺産分割協議を行う必要があります。

 大切なことは「遺産分割協議は相続人全員で行う必要がある」という点です
 したがって、1人でも欠けた状態で合意しても無効となり、その結果、登記や名義変更も出来ません

 行方不明の相続人がいるままでは、遺産分割協議を進めることが出来ず、

  • 遺産を受け取れない。
  • 相続税の申告期限(10か月)に間に合わない。
  • 登記義務化後(令和6年4月以降)は、罰則対象になる可能性がある。

といったリスクが生じる可能性があるのです。


行方不明となった相続人を見つけるための手順

 まずは、できる限りの方法で所在地を調査しましょう。行方不明となった相続人を見つけ出すことができれば、それに越したことはありません。
 そのためにとるべき手順は、以下のとおりです。

① 住民票や戸籍の附票で住所をたどる

 まずは当人の現住所を確認しましょう。
 判明している最後の住所地の役所で住民票の発行を申請した場合、住所が変わっていなければ住民票が発行されます。
 他方、住所が変わっていれば役所から「該当なし」との回答がありますので、その場合には戸籍の附票を取得します。

 戸籍の附票には、現在に至るまでの住所の履歴が記載されていますので、場合によっては転居先が判明することがあります。
 もし、現住所が判明したら、手紙を送付するなどして連絡をとってみましょう。

② 現地調査・郵便追跡による確認

 手紙を送付しても反応がなかったり、手紙が返送されたりする場合には、現地へ赴いて周辺住民に聞き込みを行うことも有効です。
 最後の住所地周辺の住民などに聞き込みをしてみると有力な情報が得られることがあります。

 また、最後の住所地宛てに書留郵便を送付すれば、郵便局の郵便追跡サービスにより、郵便物が転送されているか否か、どの郵便局から配達されたかなどを確認できる可能性があります。

③ 弁護士や探偵を通じて所在調査をする

 可能な限りの調査を尽くしても居場所が判明しない場合には、専門家の力を借りた方が良いでしょう。
 弁護士に相談すれば、調査方法の具体的なアドバイスが得られることもあります。

 また、探偵に所在調査を依頼するで行方不明となっていた相続人が見つかることもあります。
 一定の費用はかかりますが、行方不明者の居所が判明するケースも少なくありません。


不在者財産管理人制度による対応

 調査を尽くしても見つからない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てることで手続きを進められます。
 この制度を利用すると、一部の相続人が行方不明でも遺産分割の手続きを進めることが可能となります。

① 不在者財産管理人制度とは

 不在者財産管理人とは、行方不明となって容易に戻る見込みのない人の財産を適切に管理するため、家庭裁判所によって選任された人を指します。

 不在者財産管理人の主な職務は不在者の財産を管理し、保存することですが、家庭裁判所の許可を得て、不在者に代わり財産の処分や遺産分割をすることも出来ます。
 つまり、行方不明の相続人の代わりに不在者財産管理人を遺産分割協議に参加させることで、遺産分割の手続きを進めることが可能となるのです(民法28条)。

② 家庭裁判所への申立手続き

 不在者財産管理人を選任するためには、家庭裁判所への申し立てが必要です(民法25条1項)。
 この申し立てが出来るのは「利害関係人」と「検察官」に限られますが、相続手続きのために選任が必要なケースでは、他の相続人も利害関係人として認められます。

 申し立ての際には、以下の書類を、不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します(家事事件手続法145条)。

  • 申立書
  • 不在者の戸籍謄本、戸籍の附票
  • 財産管理人候補者の住民票または戸籍の附票
  • 不在の事実を証する資料(例:探偵が作成した調査報告書など)
  • 不在者の財産に関する資料(例:通帳の写し、金融機関や証券会社が発行した残高証明書、不動産の登記事項証明書など)

 財産管理人候補者は、問題となっている相続と利害関係のない人でなければなりません。実務上は、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多いです。
 その理由は、不在者の財産を適切に管理するためには法的問題に直面するケースが多いことから、法律の専門家である弁護士や司法書士が適任であると考えられているからです。

 申し立ての際は800円分の切手を申立書に貼付するとともに、郵便切手も家庭裁判所へ提出しなければなりません。
 切手代は裁判所によって異なることがあるため、事前に申立先の裁判所でご確認ください。

 申し立てから選任決定までには2~3ヶ月程度の期間を要することが多いので、所在調査を尽くしたら、不在者財産管理人選任の早めに申し立てた方が良いでしょう。
(以上までにつき、裁判所のホームページもご確認ください。)


失踪宣告制度による解決方法

 次に、失踪宣告制度を利用して解決する方法を解説します。

① 失踪宣告制度とは

 失踪宣告制度とは、生死不明の状態が一定期間続いた人について、法律上、死亡したものとみなす制度のことです(民法31条)。
 したがって、家庭裁判所が失踪宣告を出せば、死亡したものとして取り扱われるため、その時点で当人の相続が開始します。そのため、もとの相続については、当人の相続人を遺産分割協議に参加させることで、遺産分割の手続きを進めることが出来るようになります。

② 普通失踪と特別失踪の違い

 失踪宣告には、普通失踪と特別失踪の2種類があります。

 普通失踪とは、不在者の生死不明の状態が7年間続いたときに行われる失踪宣告です。
 特別失踪とは、不在者が戦争や海難事故など死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去ってから1年間、生死不明の状態が続いたときに行われる失踪宣告のことです。例えば、大地震などの自然災害で被災して行方不明となった場合は、それから1年後に特別失踪が認められる可能性があります。

 一部の相続人について行方が分からなくなったというケースでは、普通失踪を検討することになるでしょう。
 その場合、当人の生存が最後に確認されたときから7年が経過するまで、失踪宣告は認められません。

③ 失踪宣告制度を利用するときの注意点

 失踪宣告制度を利用するメリットは、当人が死亡したものとみなされることから、不在者財産管理人を選任しなくても遺産分割の手続きを進めることが可能となることです。

 しかし、失踪期間が満了するまでは失踪宣告が認められませんので、最長で7年間にわたって遺産を分割できなくなるというデメリットがあります。
 また、失踪宣告は当人が死亡したものとみなすものであることから、家庭裁判所での審理は、不在者財産管理人選任の場合よりも厳しく行われます。
 そのため、事前に当人の所在調査を徹底的に行っておかなければなりません。

 このように失踪宣告制度を利用するには高いハードルを越えなければいけないケースもあるため、不在者財産管理人制度を利用した方が、速やかに遺産分割の手続きを進めることが可能なケースも多いです。


制度利用後の遺産分割の進め方

 不在者財産管理人制度や失踪宣告制度を利用した後に、遺産分割協議を進める手順についてご説明します。

① 不在者財産管理人が選任された場合

 不在者財産管理人を選任した場合、遺産分割協議には不在者財産管理人に参加してもらい、遺産分割協議書にも不在者財産管理人に署名・押印してもらうことになります。

 ただし、遺産分割協議をまとめる際には、家庭裁判所による権限外行為の許可を得る必要があることに注意が必要です。
 なぜなら、不在者財産管理人の職務は、不在者の財産を管理・保存することだからです。遺産分割によって不在者の取り分が法定相続分より少なくなってしまう場合は、財産を処分することに該当するため、権限外行為の許可が必要となります。

 もっとも、行方不明者以外の相続人全員が合意している遺産分割の案件では、通常、家庭裁判所の許可が得られます。

② 失踪宣告がなされた場合

 失踪宣告制度を利用した場合は、行方不明者の相続人をもとの遺産分割協議に参加させることになります。

 例えば、行方不明者に配偶者と子どもがいる場合は、その配偶者と子どもを交えて遺産分割協議を行います。
 ただし、これらの配偶者や子どもが主張できる相続分は、もともと行方不明者が有していた法定相続分に限られることにはご注意ください。


弁護士に依頼するメリット

 行方不明の相続人がいる場合の相続手続きは、弁護士に依頼して進めることもできます。弁護士の力を借りることで、以下のメリットが得られます。

① 所在調査から裁判所での手続きまで一任できる

 行方不明者の所在調査、不在者財産管理人選任の申し立てや失踪宣告の申し立てといった家庭裁判所での手続きは、弁護士に依頼して一任することが可能です。
 複雑で専門的な知識を要する作業や手続きを弁護士に任せることで、労力を削減できますし、速やかに手続きを進めることにもつながります。

② 書類の不備を防止できる

 家庭裁判所での手続きは、書類に不備があると円滑に進みません。
 特に、所在調査の結果を記載した資料に不備があると、不在者財産管理人の選任や失踪宣告が認められず、相続手続きを進められないことにもなりかねません。

 その点、弁護士に依頼すれば、必要にして十分な書類を揃えてもらえますので、安心して手続きを進めることができます。

③ 他の相続人との交渉をサポートしてもらえる

 遺産分割協議に進むことができても、相続人間で意見が対立してしまい、トラブルに発展することは多々あります。

 弁護士は、遺産分割協議にも代理人として参加できますので、他の相続人との交渉をサポートしてもらえます。
 弁護士が冷静かつ論理的に他の相続人と交渉してくれますので、円満な遺産分割協議の成立が期待できます。


まとめ

 行方不明の相続人がいる場合は、一人で悩んでいても相続手続きを進めることは出来ませんので、弁護士などの専門家へ相談することが大切です。
 所在調査をしても行方不明者が見つからない場合には、不在者財産管理人制度や失踪宣告制度などの法的手段を活用することになりますが、弁護士が付いていれば的確に手続きを進めてもらえます。

 相続トラブルの長期化を防ぐためにも、迅速かつ正確な対応が重要です。
 湊第一法律事務所では、相続分野に精通した弁護士が、財産調査から協議書作成、また調停・審判対応まで一貫して対応します
 行方不明の相続人がいてお困りの方は、お気軽にご相談ください。

投稿日:2025年10月27日


【この記事の監修弁護士】

弁護士 嶋村 昂彦
第二東京弁護士会所属
湊第一法律事務所・パートナー弁護士

都内大手事務所および地域密着型の事務所で培った幅広い経験を活かし、企業・個人を問わず、多様な案件に柔軟かつ丁寧に対応。
依頼者に寄り添いながら、確かな法的知見に基づいた実践的な解決策を提供する姿勢に定評がある。

<略歴>
栃木県出身。早稲田大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。
都内大手法律事務所および横浜市内の法律事務所で実務経験を積む。
中小企業法務をはじめ、相続(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)・成年後見業務・債務整理などの幅広い個人法務に携わる。
また、神奈川県弁護士会所属時には、犯罪被害者支援委員会に在籍し、犯罪被害者支援といった公益活動にも注力する。
現在は、湊第一法律事務所パートナー弁護士として、企業・個人の双方に対し、信頼と安心をもたらす法的支援を提供するため邁進する。

<主な取扱分野>
企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
相続問題(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)
労働事件(労使双方)
債権回収

<弁護士・嶋村昂彦の詳しい経歴等はこちら>

© 湊第一法律事務所