死亡保険金は特別受益に該当するのか。最高裁判所の決定をもとに主張を展開して、依頼者の固有財産である死亡保険金を守り抜いた事例。 |
目次
ご相談の背景 |
ご依頼者様は、父親のご逝去に伴って、相続人どうしで遺産分割を進めようとしていました。
ところが、相続人の1人から「あなたが受け取った死亡保険金は、特別受益に該当する。」と主張され、「死亡保険金も他の遺産と同様に遺産分割の対象とすべきだ。」との意見が出されました。
ご依頼者様は、父親が生前に指定していた保険金の受取人であり、保険契約に基づいて死亡保険金を受け取っていました。
「本当に自分だけの財産として扱えるのか。」・「他の相続人と分けなければならないのか。」と不安を抱えるようになり、ついには相続人の1人から家庭裁判所に対し、遺産分割の調停が申し立てられる事態となりました。
ご自身での対応に限界を感じられたご依頼者様からご相談を受け、当職が調停手続に代理人として関与することになりました。
担当弁護士の対応 |
① 遺産分割の調停における対応 |
当職は、遺産分割調停にて、代理人弁護士として、ご依頼者様の権利を考慮しながら、相続人間の調整を図りつつ、死亡保険金に関する法的立場を明確に主張しました。
また、調停委員に対しても、単なる感情的なやり取りに終始せず、法律上の根拠に基づいた冷静な主張を重ねることで、協議の円滑化に努めました。
② 死亡保険金の法的性質に関する主張 |
今回の案件における最大の争点は、「死亡保険金が特別受益にあたるか否か」でした。
特別受益とは、遺産分割の公平を保つため、相続人の方が、被相続人(亡くなった方)から生前に受けた贈与や遺贈のうち、他の相続人と比べて特別な利益と判断されたものを意味します。
特別受益に該当する場合には、得られた利益を遺産に加算したうえで遺産分割が行われることになります。そして、特別受益があると判断された相続人は、遺産分割の際、その利益分が控除されるため、他の相続人と比べて、遺産分割自体で取得できる相続財産が少なくなります。
「特別受益」に関する詳細な解説は、「特別受益とは?計算方法・対象となるケース・10年ルールまで完全ガイド」もご確認ください。 |
相続人の1人は「保険金も実質的に亡くなった人の財産であり、相続財産と同様に扱うべきだ。」と主張してきました。これに対し、当職は、最高裁判所の決定を根拠にして、死亡保険金がご依頼者様の固有の財産であり、特別受益に該当しないことを明確に反論しました。
①保険金受取人に指定された者が取得する死亡保険金は、原則として、受取人の固有の財産であり、特別受益に該当しない。 |
②ただし、保険金の額や遺産総額に対する比率に加え、同居の有無、介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人および他の相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の事情を総合考慮して、死亡保険金を特定の相続人が取得することで、著しい不公平が生じる特別な事情がある場合には、特別受益と判断される可能性がある。 |
この最高裁判所の決定を前提にすると、受取人が指定されている死亡保険金は、原則として、受取人の固有の財産と考えられ、特別受益に該当しないことになります。
もっとも、最高裁判所は、上記②のとおり、例外的な場合には、死亡保険金が特別受益に該当する余地があることも判断しています。
例えば、死亡保険金が遺産総額の約60%にのぼった事案において、最高裁判所が示した「特別な事情」があるとして、死亡保険金が特別受益に該当した事例があります(名古屋高裁平成18年3月27日決定(家月58巻10号66頁))。
当職は、今回の死亡保険金には「特別な事情」がないことを丁寧に立証しました。具体的には、遺産全体と死亡保険金の比率、被相続人の意思、その他の相続人が得られる利益などを整理し、死亡保険金が通常の範囲であり、原則どおり、ご依頼者様の固有財産として認められるべきことを主張しました。
この法的主張が受け入れられたことによって、ご依頼者様に不利益が及ぶがない遺産分割が可能となりました。
③ 調停手続の円滑な進行と調停成立後のサポート |
当職は、調停委員に対し、ご依頼者様の立場や心情も丁寧に伝えました。その結果、相続人間の対立が次第に緩和され、協議が円滑に進み、実現可能な内容で遺産分割の調停を成立させることができました。
そして、調停成立後は、成立した遺産分割の内容に基づいて、預貯金の解約や株式の名義変更といった手続も継続的にサポートをご提供し、ご依頼者様が一貫して安心できる環境を整備しました。
弁護士がサポートした結果 |
✅死亡保険金が「受取人の固有財産」として認められ、特別受益とされず。その結果、ご依頼様の法的利益を守り抜くことに成功。
✅遺産分割調停が円滑に進行し、公平な内容で合意が成立。
✅調停成立後の手続(預金解約・名義変更)まで一貫してサポート。その結果、分割内容の実現がスムーズに完了。
担当弁護士のコメント |
死亡保険金が特別受益に該当するか、それとも自分の固有財産なのか—。
相続の場面では、このような法的判断が問われることが少なくありません。
とりわけ相続人どうしの感情の対立が表面化しやすい場面では、法的根拠を明確に示しつつ、冷静に主張を組み立てる姿勢が求められます。
今回の案件では、早期のご相談により、調停手続から一貫した支援を提供できたことで、ご依頼者様の不安を和らげ、納得のいく解決へと導くことができました。
死亡保険金の取扱いを含め遺産分割をめぐる相続の問題でお悩みの方は、どうかお一人で抱え込まず、まずは一度ご相談ください。
湊第一法律事務所は、あなたの権利と想いを丁寧に守るため、全力でサポートいたします。
投稿日:2025年7月25日
更新日:2025年8月17日
【この記事の監修弁護士】
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弁護士 嶋村 昂彦 都内大手事務所および地域密着型の事務所で培った幅広い経験を活かし、企業・個人を問わず、多様な案件に柔軟かつ丁寧に対応。 |
<略歴>
栃木県出身。早稲田大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。
都内大手法律事務所および横浜市内の法律事務所で実務経験を積む。
中小企業法務をはじめ、相続(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)・成年後見業務・債務整理などの幅広い個人法務に携わる。
また、神奈川県弁護士会所属時には、犯罪被害者支援委員会に在籍し、犯罪被害者支援といった公益活動にも注力する。
現在は、湊第一法律事務所パートナー弁護士として、企業・個人の双方に対し、信頼と安心をもたらす法的支援を提供するため邁進する。
<主な取扱分野>
・企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
・相続問題(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)
・労働事件(労使双方)
・債権回収