「勝訴判決をようやく得たのに、相手が一向にお金を支払ってくれない。」
「商品を納品したにもかかわらず、取引先が代金を支払ってくれない。」
このような債権回収に関するトラブルは、企業・個人事業の現場では残念ながら後を絶ちません。

時間と費用、そして多大な精神的労力を費やして、「債務名義」と呼ばれる「公的にお金の支払いを請求できる権利を証明する文書」(確定判決、和解・調停調書、審判、執行認諾文言付公正証書など)を手に入れたとしても、それはゴールではなく、債権回収のスタートラインに過ぎないケースが多々あります。
債務者が支払い能力を有しながら支払いを拒んだり、財産を巧妙に隠したりする例は後を絶ちません。
債権者が最後に頼る手段が「強制執行」です。この手続きは、裁判所を通じて債務者の財産を強制的に差し押さえる手段となり、その対象は不動産や給与、そして預貯金が代表的です。
しかし、この強制執行にも大きな壁が存在していました。
それは「差押えを行うには、債権者自身が債務者の財産を特定しなければならない」ことです。
特に預貯金の差押えでは、銀行名だけでなく、「〇〇銀行 △△支店」のように支店名まで正確に特定しなければ、差押えの申立てが出来ません(なお、一部例外はあります。)。
しかし、他人口座の支店名まで正確に把握している債権者はほとんどおらず、これが原因で強制執行を断念し、泣き寝入りせざるを得ない状況に陥っていました。
このような状況を解決すべく、令和2年(2020年)4月1日に改正民事執行法が施行され、新たに導入・拡充されたのが 「第三者からの情報取得手続」 です。
この制度により、債権者は、裁判所を通じて、金融機関や登記所といった第三者から、債務者の財産に関する情報を法的に入手可能となりました。
本記事では、とりわけ利用頻度の高い「預貯金口座の調査」に焦点を当て、多様な債権回収の案件・手続きの経験を有する弁護士が≪制度の内容≫・≪申立ての要件≫・≪手続きの流れ≫、そして≪注意点≫まで、解説します。 目次

第三者からの情報取得手続とは? |
「第三者からの情報取得手続」(民事執行法204条以下)とは、執行力のある債務名義を持つ債権者が、裁判所に申立てを行うことで、債務者以外の第三者(金融機関など)から債務者の財産に関する情報の提供を受けることが出来る制度です。
この制度によって、これまで困難であった財産調査が格段に行いやすくなり、その結果、強制執行の実効性が大幅に向上しました。
国内のほぼ全ての金融機関に対し、債務者名義の「預貯金口座の有無」、「取扱店舗」、「預金の種別」、「口座番号」、そして「残高」といった情報提供を求めることができます。
そして、この制度の最大のメリットは、銀行の本店に照会をかけるだけで、その金融機関の全支店の口座情報を横断的に調査が出来ることです。
債権者が具体的な支店を知らなくても、照会先の金融機関にある全ての支店の口座情報を網羅的に調査することが可能となりました。
このように、「支店名が不明で差押えが出来ない」という状況が大幅に解消されることに繋がりました。

申立ての要件|強力な制度ゆえの厳格な条件 |
この手続は債務者のプライバシーに関わる情報を取得する強力なものであるため、申立てには要件が定められています(民事執行法207条1項本文)。
① 執行力のある債務名義の正本を有していること |
大前提として、強制執行可能な債務名義の正本が必要です。
つまり、「お金を返してもらう約束をした」というだけでは足りず、裁判所の判決や調停調書、公証役場で作成した執行認諾文言付公正証書など、法的に強制執行が可能であることが認められた文書が必要となります。
② 強制執行を開始できる状態にあること |
債務名義(判決など)が債務者に送達されていることなど、法律で定められた強制執行の開始要件を満たしている必要があります。
通常は、債務名義の取得と同時に送達手続きも行われ、その証明として「送達証明書」を提出します。
③ 民事執行法197条1項各号のいずれかに該当すること |
いずれかに該当する場合、初めて第三者からの情報取得手続きが認められます。
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➊ 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき。 |
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❷ 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき。 |
申立てから情報取得までの流れと費用 |
① 申立ての準備 |
➊ 管轄裁判所 |
原則として、債務者の住所地(法人の場合は本店所在地)を管轄する地方裁判所に申し立てます(民事執行法204条)。
❷ 主な必要書類 |
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◆ 情報取得手続申立書 |
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◆ 執行力のある債務名義の正本 |
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◆ 債務名義の送達証明書 |
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◆ 当事者の資格証明書(債務者の住民票、法人の場合は登記事項証明書など) |
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◆ 財産調査結果報告書(民事執行法197条1項2号による申立の場合):申立前に行った財産調査の内容と結果をまとめた書類。 |
| ◆ 執行不奏功を証明する資料(民事執行法197条1項1号による申立の場合):配当表の写し、執行力のある債務名義の写しなど |
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② 申立てにかかる費用 |
申立てには、➊裁判所に納める実費と❷弁護士に依頼する場合の弁護士費用がかかります。
➊ 裁判所に納める実費 |
◆ 申立手数料(収入印紙):1,000円
◆ 予納金:1銀行あたり5,000円が基本となります。
※照会する金融機関が1社増えるごとに、4,000円が追加で必要となります。例えば、金融機関10社の照会する場合は、5,000円+(4,000円×9社)=41,000円程度が必要になる計算です(なお、運用は裁判所により異なる場合があります。)。
◆ その他実費:住民票や登記事項証明書の取得費用など。
❷ 弁護士費用 |
弁護士に依頼する場合は、着手金や成功報酬が発生します。
③ 裁判所の審査と情報提供命令の発令 |
申立てをすると、裁判所は申立書や添付書類を審査し、要件が満たされているかを判断します。
そして、要件を満たしていると認められれば、裁判所は、照会先の第三者(金融機関など)に対して、「情報提供命令」を発令します。
④ 第三者からの情報提供 |
命令を受け取った金融機関は、自社システム内で債務者名義の口座を検索し、以下事項を文書で裁判所に回答します。
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◆ 口座の有無 |
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◆ 支店名 |
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◆ 種別 |
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◆ 口座番号 |
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◆ 残高 |
この回答は、通常、命令発令から約2週間程度でなされます。
申立人は、裁判所からその回答内容の写しを受け取ることで、債務者の口座情報を知ることが出来ます。
⑤ 債務者への通知と「1か月」の時間的猶予【最重要】 |
この手続きで最も重要なことは「債務者への通知タイミング」です。
債務者にこの手続きが行われたことが通知されるのは、原則として「最後の第三者から裁判所に情報提供がなされた日から1ヶ月を経過した後」となるよう運用されています(ただし、裁判所により運用が異なります。)。
つまり、申立人(債権者)は、債務者に知られることなく、約1ヶ月間、相手の財産情報を独占できるのです。
この期間は、まさに債権回収の成否を分けるゴールデンタイムと言えます。債務者が預金を引き出したり、他の口座に移したりする前に、次の手を打つための貴重な時間です。
情報を得た後にすべきこと|即座の差押えが勝負を決める |
口座情報が判明したら、即座に行動を起こす必要があります。
1ヶ月の猶予期間を最大限に活用し、取得した情報に基づいて「債権差押命令」の申立てを裁判所に行います。
申立てが認められ、裁判所から差押命令が金融機関に送達された時点で口座が差押えられ、債務者は預金を引き出すことが出来なくなります。その後、債権者は金融機関から直接、差し押さえた預金の支払いを受けることで、ようやく債権を回収できるのです。
以上までのとおり、情報取得から差押え申立てまでの手続きをいかにスムーズかつ迅速に行えるかが、回収成功の鍵です。迅速な対応こそが最大の武器です。

注意点と制度の限界 |
第三者からの情報取得手続は、非常に強力な手続きですが、万能ではありません。以下の点に注意が必要です。
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残高は変動する |
開示される残高は、あくまで金融機関が回答した時点のものです。差押えのタイミングによっては、既に引き出されてしまっている可能性もゼロではありません。 |
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調査対象は指定したもののみ |
申立人が指定した金融機関しか調査対象になりません。債務者が全く予想外のネット銀行や地方の信用組合に口座を持っている場合、申立の際にそれらを一覧から漏らしていれば情報が得られません。 |
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差押禁止範囲の存在 |
預貯金であっても、給与の振込口座などである場合、法律で定められた一定の範囲(差押禁止債権)は差し押さえられない可能性があります。 |
おわりに|回収戦略の「核」となる制度 |
「第三者からの情報取得手続」は、これまで財産調査の困難さから回収をあきらめざるを得なかった多くの債権者にとって、希望の光となる画期的な制度です。
正当な権利を持ちながら、相手の不誠実な対応に悩まされている方にとって、これほど頼りになる武器はありません。
しかし、本記事で解説したとおり、その申立てには要件があり、また提出書類も専門的で複雑です。そして、情報を取得した後の差押え手続きを迅速に行わなければ、せっかくのチャンスを逃してしまうことにもなりかねません。
貴社の大切な資金を確実に取り戻すためにも、ぜひ一度、湊第一法律事務所へご相談ください。
専門家として、煩雑な書類の作成、裁判所とのやり取り、そして最も重要な「タイミングを逃さない差押え」までトータルでサポートいたします。
あなたの正当な権利を実現するため、私たちが全力でお手伝いします。
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なお、債権回収の確実性を高める民事保全については、「債権回収に強い弁護士が解説|企業を守る民事保全(仮差押え)の知識」もご確認ください。 |
【この記事の監修弁護士】
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弁護士 嶋村 昂彦 都内大手事務所および地域密着型の事務所で培った幅広い経験を活かし、企業・個人を問わず、多様な案件に柔軟かつ丁寧に対応。 |
<略歴>
栃木県出身。早稲田大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。
都内大手法律事務所および横浜市内の法律事務所で実務経験を積む。
中小企業法務をはじめ、相続(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)・成年後見業務・債務整理などの幅広い個人法務に携わる。
また、神奈川県弁護士会所属時には、犯罪被害者支援委員会に在籍し、犯罪被害者支援といった公益活動にも注力する。
現在は、湊第一法律事務所パートナー弁護士として、企業・個人の双方に対し、信頼と安心をもたらす法的支援を提供するため邁進する。
<主な取扱分野>
・企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
・相続問題(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)
・労働事件(労使双方)
・債権回収
