相続
2025/11/13

【相続⑦】相続放棄とは?借金を引き継がないための手続きと注意点を弁護士が解説

 被相続人(亡くなった方)が多額の借金を抱えていたような場合には、「相続放棄」を検討することになります。
 ただし、相続放棄をするには法律で定められた期間内に手続きを行う必要があり、また放棄をするとプラスの遺産も受け取れなくなるなど様々な注意点があります。

 そこで、本記事では、遺産分割や遺留分、遺言書の作成など相続問題に精通する弁護士が、≪相続放棄とは何か≫・≪メリット・デメリット≫から≪手続きの流れ≫などを解説します。



相続放棄とは

 相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務の承継を全面的に拒否することを意味します。

民法939条
 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす

 以上のように相続放棄をすれば、相続開始時(被相続人の方が亡くなった時)に遡って初めから相続人でなかったとみなされます。
 その結果、プラス・マイナスを問わず一切の遺産を引き継がないことになります。

 被相続人の方が借金などで多額の負債を抱えていた場合には、相続放棄をすることでその返済義務から免れることが可能になるのです。
 ただし、相続放棄をするためには「放棄する」と意思を示すだけでは駄目で、家庭裁判所での手続きが必要です。


相続放棄のメリット・デメリット

 では、相続放棄のメリットとデメリットをご紹介します。

 【メリット】

 相続放棄の最大のメリットは、被相続人が抱えていた借金などマイナスの遺産を引き継がずに済むことです。
 また、遺産である不動産などの管理にかかるコストや労力の負担からも免れることができます。相続税に関しても、相続税の計算対象から外れるため、相続放棄をした方が税負担することはありません。
 さらに、相続放棄をすれば遺産分割協議に参加する必要がなくなり、面倒な手続きの負担や相続トラブルから解放されるというメリットも得られます。

 【デメリット】

 相続放棄の最大のデメリットは、借金などマイナスの遺産だけでなく、預貯金や不動産などプラスの遺産も一切受け取れなくなることです。
 
また、一度放棄すると撤回することが出来ない点にも注意しましょう(民法919条1項)。そのため、家庭裁判所で相続放棄が認められた後にプラスの遺産が見つかったとしても、それを受け取ることができません。

 さらに、相続放棄をした場合には代襲相続が生じないことも挙げられます
 相続放棄をした方は初めから相続人ではなかったことになるため(民法939条)、放棄をした相続人に子がいても代襲相続が発生しません(代襲相続が発生するのは、相続前死亡・廃除などが生じた場合に限られます。)。
 遺産を自分が引き継ぐのではなく、自分の子どもに直接引き継がせたいと考えている場合には注意してください。


相続放棄の手続きの流れ

 ここでは、相続放棄をするための手続きについて、流れに沿って解説していきます。

① 相続財産の調査

 まずは、相続財産の調査をすることが大切です。
 相続放棄の後にプラスの財産が判明した場合も、逆に放棄をしないで相続を承認した後にマイナスの財産が判明した場合であっても、ともに重大な問題が生じるおそれがあります
 そのため、相続放棄をするべきか慎重に検討するためにも、必ずプラス・マイナスの両方について、被相続人の財産を徹底的に調査をしましょう

② 家庭裁判所への申立て

 相続放棄をすると決めた場合は、家庭裁判所への申し立てが必要です。

民法938条
 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない

 申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です家事事件手続法201条1項)。
 申し立ての際には、以下の書類を家庭裁判所へ提出します(詳細は、裁判所HPもご確認ください。)。

 ◆相続放棄の申述書

 ◆被相続人の死亡記載のある戸籍謄本(ただし、第二・三順位相続人の方が相続放棄の申立てをする際には、出生〜死亡までの全ての戸籍謄本が必要となります。)

 ◆被相続人の住民票除票または戸籍附票

 ◆申立人の戸籍謄本(ただし、代襲相続の場合には、被相続人の子の出生~死亡までの全てに戸籍謄本が必要となります。)

③ 照会書への回答

 家庭裁判所に申立てをすると、概ね10日後に裁判所から照会書が送付されます。

 照会書は、相続放棄の申述が申述人の真意に基づいて行われたのかや相続の単純承認に該当する事情がないかなどを確認するための書類です。
 質問が記載され回答欄が設けられていますので、ひとつずつ回答を記載し、家庭裁判所へ返送しましょう。
 ただし、回答内容によっては相続を単純承認したものとみなされてしまうおそれがあるので、弁護士にご相談のうえで、慎重に回答を記載することをおすすめします。

④ 相続放棄申述の受理

 家庭裁判所では、相続放棄の申述書の記載内容や照会書に対する回答の内容などに基づき、審理のうえ、相続放棄の許否が判断されます。
 

 相続放棄が認められた場合は、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。通常のケースでは、照会書を返送してからおおおむね10日程度で届きます。
 相続放棄申述受理通知書が届いたら手続きが完了したことになります。


相続放棄の期限

 次に、相続放棄の申立期限をご説明します。

 原則:相続開始から3ヶ月以内

 原則として相続開始(被相続人が亡くなったこと)を知った日から3ヶ月以内に申し立てる必要があります。

民法915条1項本文

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない

 この「自己のために相続の開始があったこと」とは、被相続人が死亡して相続が開始された事実を知ったことだけでは足りず、自分が相続人となった事実を知ったことまで必要とされています(大決大15・8・3民集5-679)。
 
もっとも、期間管理の万全を期すという観点で言えば、「亡くなった日から」3か月と捉えた方が安心かと思います。

 3ヶ月以内に間に合わないときの対処法

 相続人や相続財産の調査に時間を要するなどして、3ヶ月以内の期限に申立てが間に合わないこともあるでしょう。

 そのようなケースでは、3か月の期限内に期限延長の申立て(熟慮期間伸長申立て)を家庭裁判所にすることで、申立期限を延長してもらえる可能性があります。

民法915条1項但書き

 ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 期限の延長を認めてもらうためには、「3ヶ月では判断できない」と考えられるような合理的理由が必要です。仕事や家事で多忙だったという理由では認められませんので注意しましょう。

 一般的に<財産が多数ある場合>・<被相続人が多重債務に陥っていた場合>・<事前に相続財産に関する情報を一切聞かされていなかった場合>・<相続人の数が多い場合>・<疎遠になった相続人と連絡が取れない場合>など相続調査に膨大な時間がかかる場合では、期限の延長が認められる可能性があります。

 例外:3ヶ月以上が経過しても相続放棄できるケース

 3ヶ月の期限が経過した後でも、例外的に相続放棄が認められることがあります。

最高裁第二小法廷昭和59年4月27日決定(民集第38巻6号698頁)概要

 3か月間の熟慮期間は、原則として、相続人が相続開始及び自己が相続人となった事実を知った時から起算するべきである。
 ただし、この
事実を知った時から3か月以内に相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があってこのように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識できる時から起算するものと解する。

 以上のように限定的なケース、つまり、相続財産が全く存在しないと信じる相当な理由があるときは、相続財産の全部または一部を認識した時または認識できたであろう時から、3か月の期間が起算されます。
 注意点は、最高裁の決定を前提にすると、「プラスの財産の存在は認識していたが、マイナスの財産を認識していなかった」ような場合では、(プラス・マイナス問わず)「相続財産が全く存在しないと信じた」に該当しない可能性がある点です
 この最高裁の決定で示された条件を満たすかどうかは、家庭裁判所で厳しく審理されます。そのため、相続開始から3ヶ月以上が経過した後に相続放棄を申し立てる場合には、弁護士に相談をした方が良いでしょう。


相続放棄の注意点

 相続放棄をするときには、以下の点に注意が必要です。

 親族トラブルに注意

 相続放棄をすると初めから相続人ではなかったことになります。

 例えば、被相続人が多額の借金を残して亡くなり、配偶者と子ども全員が相続放棄をした場合、被相続人の両親や兄弟姉妹が相続人となります。
 このような仕組みによって、兄弟姉妹などが知らないうちに相続人になっていた、というトラブルが生じるケースも少なくありません。トラブルを防止するためにも、相続放棄することを親族の方にも伝えておくことが大切です。

 遺産を処分すると相続放棄ができなくなる

 相続開始から3ヶ月以内でも、単純承認をすると相続放棄ができなくなってしまいます。

民法921条1号

 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 単純承認とは、被相続人の財産を無条件で相続することを意味します。特別な手続きは不要であり、相続人の財産を一部でも処分すると、単純承認に該当します。
 そのため、遺産となった預貯金を生活費に使ったり、不動産を売却したりした後は相続放棄ができなくなることに注意が必要です。

 ただし、被相続人の医療費や葬儀費用を遺産の中から支払うことや携帯電話やクレジットカードなどを解約することなど、社会通念上妥当と認められる範囲内の行為は、単純承認に該当しないと判断されることもあります。
 とはいえ、「どこまでが保存行為か」は非常に判断が難しく、保存行為に当たるかどうかは個別事情により判断されるため、処分にあたる可能性がある行為は避けるのが無難です

 債権者に対しては相続放棄の証明が必要

 相続放棄をしても、裁判所から被相続人の債権者に通知されるわけではありません。そのため、相続放棄をした後でも債権者から支払いを請求されることもあります。
 そのような場合には、相続放棄をしたため支払い義務を引き継いでいない旨を伝えましょう。

 債権者から相続放棄をしたことの証明が求められることがあります。
 その場合には、家庭裁判所に申請して「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらい、それを債権者へ送付しましょう。
 1通につき150円分の収入印紙が必要ですが何通でも発行してもらうことができます。


弁護士に依頼するメリット

 相続放棄に関する悩みを抱えている場合は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。専門家である弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。

 相続放棄をすべきか適切に判断できる

 弁護士に依頼すれば、財産調査の段階からサポートを受けることができます。
 調査した結果を踏まえて、相続放棄をすることのメリット・デメリットを弁護士が説明し、アドバイスしてくれます。
 相続放棄をするべきかどうかを適切に判断することが可能となりますので、自己判断による手続きで後悔することを防止できます。

 迅速な手続きが可能となる

 相続放棄の申し立て手続きは、弁護士に一任できます。
 相続放棄の申述書は弁護士が作成しますし、照会書への回答についてもサポートを受けられます。法的に必要な情報を整理して適切に家庭裁判所へ伝えることが出来るようになります。
 迅速かつ的確に申し立ての準備と手続きを進めてもらえますので、期限を気にして慌てる必要はありません


まとめ

 相続放棄をする場合は、期限を守ること、手続きを正しく行うこと、事案の内容を家庭裁判所へ適切に伝えることが重要です。

 相続放棄が認められると、借金を相続しなくてよいという大きなメリットが得られます。一方で、プラスの遺産も受け取れなくなりますので、相続放棄をすべきかどうかについては、専門的な見地からの判断が必要となるケースも多いです。

 相続放棄について分からないことや不安がある場合には、後悔しないためにも、早めに弁護士へ相談してみることをおすすめします。
 湊第一法律事務所は、あなたの権利と想いを丁寧に守るため、全力でサポートいたします


【この記事の監修弁護士】

弁護士 嶋村 昂彦
第二東京弁護士会所属
湊第一法律事務所・パートナー弁護士

都内大手事務所および地域密着型の事務所で培った幅広い経験を活かし、企業・個人を問わず、多様な案件に柔軟かつ丁寧に対応。
依頼者に寄り添いながら、確かな法的知見に基づいた実践的な解決策を提供する姿勢に定評がある。

<略歴>
栃木県出身。早稲田大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。
都内大手法律事務所および横浜市内の法律事務所で実務経験を積む。
中小企業法務をはじめ、相続(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)・成年後見業務・債務整理などの幅広い個人法務に携わる。
また、神奈川県弁護士会所属時には、犯罪被害者支援委員会に在籍し、犯罪被害者支援といった公益活動にも注力する。
現在は、湊第一法律事務所パートナー弁護士として、企業・個人の双方に対し、信頼と安心をもたらす法的支援を提供するため邁進する。

<主な取扱分野>
企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
相続問題(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)
労働事件(労使双方)
債権回収

<弁護士・嶋村昂彦の詳しい経歴等はこちら>

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