「遺産分割協議書」は、将来のトラブルを防ぎ、不動産登記などの名義変更や相続税申告をスムーズに進めるための重要な文書です。
したがって、相続人間の遺産分割協議の結果、遺産の分け方が決まったら、遺産分割協議書を作成しておくことが大切です。しかし、書き方を誤ると、最悪の場合には協議書が無効になったり、また内容が不明瞭の場合、相続人間のトラブルを招いたりするおそれがあります。
そこで、本記事では、遺産分割や遺留分、遺言書の作成など相続問題に精通する弁護士が、≪遺産分割協議書の書き方≫や≪トラブルを防止するためのポイント≫を解説します。
遺産分割協議書の書き方が分からずにお悩みの方は、是非、最後までご確認ください。

目次
遺産分割協議書とは |
「遺産分割協議書」とは、相続人全員で遺産分割協議(話し合い)を行い、合意内容を記載した書面のことを意味します。
遺言書がないケースでは、遺産分割協議という話し合いによって、遺産の分け方を決めることになります。
遺産分割の協議が上手くまとまったとしても、合意内容を書面化せず、口約束やメールによる合意のみで済ませると、相続人間で「言った・言わない」のトラブルが将来的に生じるおそれがあります。また、遺産の名義変更の手続きでは、遺産分割協議書が必要となることも多いです。
したがって、遺産分割協議書は、法律で作成を義務づけられているわけではありませんが、作成しておくべきと考えた方が良いでしょう。
遺産分割協議書が必要な場面 |
遺言書が存在する場合は、遺産分割協議書は不要ですが、次の場面では遺産分割協議書が必要となります。
① 不動産や預貯金などの名義変更 |
不動産の相続登記や預金口座の解約・名義変更を行う場合には、法務局や各金融機関から遺産分割協議書の提出が求められます。
なぜなら、相続人全員の合意があることを証明しなければ、法務局や金融機関で手続きを進めることが出来ないからです。
車や投資信託・株式など有価証券などの名義変更についても同様です。
したがって、遺産分割協議書がなければ、遺産の名義変更が行うことが出来ないのです。
② 相続税の申告 |
相続税の申告を行う際も、遺産分割協議書を税務署へ提出する必要があります(タックスアンサー「No.4202 相続税の申告のために必要な準備」参照)。
なぜなら、遺産の分け方次第で各相続人の納税額が変わってくることから、相続人全員の合意によって遺産の分け方を決めたことを証明しなければならないからです。
特に、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を適用する場合には、遺産分割協議書の提出が必須ですので注意しましょう。
③ 相続人間の取り決めを明確に残す必要がある場合 |
遺産分割協議書は、相続人間で取り決めた内容を証拠化するための文書としても重要です。
口約束やメールによる合意だけで済ませると、後に「言った・言わない」のトラブルが生じたり、一部の相続人が「気が変わった」という理由で協議内容を蒸し返したりしてくることにも繋がりかねません。
その点、遺産分割協議書は相続人全員が内容を確認したうえで、署名・押印して作成するものですので、基本的に覆せない文書となります。
円満に遺産分割協議が成立した場合であっても、後のトラブルを防止するために、遺産分割協議書を作成しておくべきといえます。

遺産分割協議書に記載すべき項目 |
遺産分割協議書の記載内容には、法律で決まりはありません。もっと、有効な遺産分割協議書を作成するためには、以下の項目を漏れなく記載すべきです。
① 協議成立日 |
日付は、遺産分割協議が成立した年月日とします(遺産分割協議書を作成した年月日でも構いません。)。
相続が発生した(被相続人が亡くなった)年月日ではない点に注意が必要です。
② 相続人全員の氏名・住所・押印 |
遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。そのため、遺産分割協議書には全員の氏名と住所を記載し、各自が押印する必要があります。
氏名は自署する必要はなく、パソコン等による印字や代筆でも構いませんが、遺産の名義変更のために、押印には実印の使用が必要です。
③ 相続財産の詳細 |
相続の対象となる財産については、それぞれの遺産を特定できるように記載する必要があります。
主に預貯金や不動産、有価証券、自動車などの動産といったものが相続財産となることが多いですが、借金などの負債も相続の対象となりますので、漏れなく記載しましょう。
④ 各相続人の取得内容 |
どの相続人が、どの遺産を相続するのかを具体的に記載しましょう。
「妻が不動産のすべてを相続する。」・「長男が銀行預金のすべてを相続する。」といった包括的な記載もできます。
しかし、同じ種類の遺産を複数の相続人で分け合う場合には、各相続人が取得する遺産を特定できる情報を記載するか、または「長男と二男が銀行預金を2分の1ずつ相続する」というように割合を指定することが必要です。
後のトラブルを防止するためには、相続財産を漏れなく記載することが大切ですが、念のため、後で遺産が判明したときの分割方法も取り決めて、記載しておきましょう。
⑤ 特別受益・寄与分に関する取り決めの有無 |
特別受益や寄与分を考慮して遺産を分割した場合は、各相続人の取り分が法定相続分と異なる結果になりがちです。
このような場合、取り分の少ない相続人が後に不満を述べ、トラブルに発展することもあります。
後のトラブルを防止するためにも、特別受益や寄与分に関する取り決めをした場合には、その内容を記載しておいた方が良いでしょう。
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「特別受益」に関する詳細な解説は、「特別受益とは?計算方法・対象となるケース・10年ルールまで完全ガイド」もご確認ください。 |
⑥ 清算条項 |
「清算条項」とは、協議している相続について、遺産分割協議書に記載した内容のほか、相続人間で何ら権利義務が存在しないことを確認する条項を意味します。
この条項を記載しておくことで、後で一部の相続人の気が変わったとしても、新たな主張が出来ないことになります。
「相続人全員は、被相続人〇〇の遺産について、本遺産分割協議書に定めるほか、何らの債権債務関係がないことを確認し、名目の如何を問わず、金員の支払を求めないことを誓約する。」というように記載するのが一般的です。
書き方のポイントと注意点 |
ここでは、遺産分割協議を作成する際の書き方のポイントや注意点について解説します。
① 相続人全員の合意が前提 |
遺産分割協議は、相続人全員が同じ内容で合意しなければ成立しません。たとえ1人でも欠けていると無効となります。
したがって、合意してくれない相続人を除外して、残りの相続人で遺産分割協議書を作成したとしても、その合意内容は無効となります。
連絡が取れない相続人や行方不明の相続人がいる場合には、まずは所在を調査しましょう。それでも判明しない場合には、失踪宣告(民法30条以下)や不在者財産管理人選任(民法25条以下)の申し立てを行ったうえで、遺産分割協議を進める必要があります。
また、相続人候補として、「胎児」がいる場合にも注意が必要です。胎児は、出生すると、相続人となるため(民法886条1項)、相続人の範囲や法定相続分が変化することになります。胎児がいる場合には、その出生までは遺産分割協議を待った方が良いです。
② 財産の特定は正確に |
相続財産を特定するための情報は、正確に記載しなければなりません。
例えば、不動産がある場合は、登記簿謄本の表題部に記載されているとおりに、一言一句そのまま記載しなければなりません。預金は、金融機関名、支店名、口座の種類(普通・定期など)、口座番号、口座名義人の氏名を記載することによって特定します。
③ 署名・実印・印鑑証明書の添付 |
各相続人の氏名は、自署でなく記名でも有効ですが、後のトラブルを防止するためには、相続人全員に遺産分割協議書の記載内容を確認してもらったうえで、自署してもらう方が望ましいです。
そのうえで、実印で押印してもらい、印鑑証明書も添付する必要があります。
④ 書き方の誤りや記載漏れがないか確認 |
書き方の誤りや記載漏れがあれば、遺産分割協議書が有効に機能しないこともあります。
その場合、不動産の相続登記や預金口座の解約・名義変更などの手続きが出来ないだけでなく、各相続人から新たな意見を主張されるなどして、トラブルに発展することにもなりかねません。
そのため、遺産分割協議書を書き上げたら、他の相続人に署名・押印を求める前に、書き方の誤りや記載漏れがないかを慎重に確認することが大切です。
トラブル防止のための工夫 |
相続人間のトラブルを防止するためには、遺産分割協議書を正確に記載することも重要ですが、次の点にも注意しましょう。
① 財産調査を事前に徹底する |
遺産分割協議の際に判明していなかった遺産が後で判明すると、トラブルに繋がりやすいものです。
そのため、遺産分割協議を始める前に、被相続人の財産調査を徹底的に行いましょう。
② 評価額について合意する |
不動産や株式などは、預貯金とは異なり、評価しなければ金銭的価値が明らかになりません。
これらの遺産について評価額を明らかにしないまま遺産分割を行うと、一部の相続人が不満を持ち、トラブルに発展することにもなりかねません。
そのため、遺産分割協議では不動産や株式の評価額も合意しておくことが大切です。
遺産分割協議書にも、評価方法と評価額を明記し、この2点について、相続人全員が合意した旨を記載しておくと良いでしょう。
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「不動産の評価」に関する詳細な解説は、「弁護士が教える|相続不動産の評価方法と分割手段の基礎」もご確認ください。 |
③ 特別受益・寄与分の取り扱いを明記 |
特別受益や寄与分に関する取り決めをしたときは、以下の例のように、具体的な内容を明記しておいた方がよいでしょう。
「妻が被相続人の療養看護に尽くしたことによる寄与分を遺産の10分の2とする。」
「長男は被相続人から平成○○年○月○日、事業資金として金○○○万円の贈与を受けた。これは特別受益に当たるので、何らの遺産を取得しない。」
このような合意内容を明記しておくことは、後のトラブルを防止することに役立ちます。
④ 弁護士や司法書士などの専門家のチェックを受ける |
法的に有効で、また遺産分割の内容を実現する遺産分割協議書を作成するには、法律や登記といった専門的な知識も要求されます。
そのため、協議書を書き上げた段階で、一度、弁護士や司法書士などの専門家によるチェックを受け、問題がないかを確認した方が良いといえます。
もっとも、遺産分割協議書の内容に問題があった場合には、遺産分割協議をやり直す必要性が生じることもあります。
そのため、できる限り早い段階から弁護士など専門家のサポートを受けるのがおすすめです。

弁護士に依頼するメリット |
遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼するメリットは、以下のとおりです。
① 法的に有効な文案の作成 |
弁護士には法的に有効な文案の作成を任せることができます。
遺産分割協議書を作成することで、不動産の相続登記や預金口座の解約・名義変更が出来なくなったり、相続人間で協議をやり直す必要性が生じたりするリスクを回避することが可能です。
② 相続人間の利害調整 |
相続人間の利害を適切に調整した内容とすることで、相続人全員が納得して合意する可能性が高まりますし、後のトラブルを防止することにも繋がります。
もちろん他の相続人との協議を弁護士に任せることも可能です。
③ 将来の紛争を見越した条項設計 |
遺産分割協議が円満に成立し、遺産分割協議書を正しく作成したとしても、その後に新たな遺産が判明したり、一部の相続人の気が変わったりして、トラブルが発生することは珍しくありません。
そのため、弁護士は将来の紛争をも見越した条項を協議書に盛り込むことにより、後のトラブル発生を防ぎます。
④ トラブルが発生した場合の法的対応 |
遺産分割協議書を作成する前に相続人間で意見が対立し、トラブルに発展することもよくあります。そんなときは、弁護士を通じて協議を進めることで冷静な話し合いが可能となり、穏便に解決できる可能性が高まります。
それでも解決できなかった場合は、遺産分割調停・審判などの法的手続きが必要となりますが、複雑な手続きは弁護士が代理人として的確に進めてくれます。
弁護士のサポートを受けることで調停や審判を有利に進めやすくなり、満足できる形でトラブルの解決を図りやすくなるのです。
まとめ |
遺産分割協議書は、相続人間の合意内容を証拠化するための書面ですが、将来の争いを防ぐための設計図でもあります。
遺産分割協議書を作成するためには専門的な知識を要しますので、弁護士など法律の専門家によるサポートを受けることで、書き方や条項の不備によるトラブルを防止することに繋がります。
湊第一法律事務所では、相続分野に精通した弁護士が、財産調査から協議書作成、また調停・審判対応まで一貫して対応します。
確実かつ円満な解決を目指すなら、早期のご相談がおすすめです。遺産分割協議書の書き方で不安を抱えている方は、是非、お気軽にご相談ください。

投稿日:2025年9月29日
【この記事の監修弁護士】
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弁護士 嶋村 昂彦 都内大手事務所および地域密着型の事務所で培った幅広い経験を活かし、企業・個人を問わず、多様な案件に柔軟かつ丁寧に対応。 |
<略歴>
栃木県出身。早稲田大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科(既習者コース)を修了後、司法試験に合格。
都内大手法律事務所および横浜市内の法律事務所で実務経験を積む。
中小企業法務をはじめ、相続(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)・成年後見業務・債務整理などの幅広い個人法務に携わる。
また、神奈川県弁護士会所属時には、犯罪被害者支援委員会に在籍し、犯罪被害者支援といった公益活動にも注力する。
現在は、湊第一法律事務所パートナー弁護士として、企業・個人の双方に対し、信頼と安心をもたらす法的支援を提供するため邁進する。
<主な取扱分野>
・企業法務全般(契約書作成・社内規程整備・法律顧問など)
・相続問題(遺産分割・遺留分・遺言書作成・相続放棄など)
・労働事件(労使双方)
・債権回収
